20251124

書いていた小説を一旦書き終えて一息つく。これから読み返して、適宜修正したり、もろもろ作業が残っているのだけれど、一番エネルギーが必要な部分が終わったことで、体が空気の抜けた風船みたいにふにゃふにゃになっている。

ここ最近は小説をたくさん書いている。書き終えてみたら、まだ小説を書きたいとか、もっと面白いものを書きたいとか、そういう情動が自分の中にあることがわかり、こんな熱に充てられるのも久しぶりだと思う。長らく、そういうのはなかった。

そういえば、以前、自分はどんなふうに作品を作っていたのだろう。そう思い立ち、今日は最近使っていなかったNotionを開いて創作物を発掘してた。そしたら数年前に、note というサイトで、ジャンプ+の漫画原案コンテストみたいなものが開かれたとき、それ用に書いた漫画原案を見つけて懐かしい気持ちになる。

漫画原案は「月とスーパーボール。」というタイトルで、内容は一番下に載せた通り。漫画の原案を書いたことがないので、文章は最低限わかる程度に書き、でも面白く読めて、脚本というほど固くならないように意識した。ような気がする。あまり覚えてない。

自分の中のBLっぽいエンジンを稼働させて書いたのだけれど、たぶんBLにはなってない。自分がBLに疎く、ジャンルに理解がないというのもある。とにかく儚い2人の少年の話が書きたかった。

読み返していて、シーン5からシーン6のちひろとよるの出会ってから仲良くなるくだりがダイジェスト的に展開されることに違和感がある。ここでエピソードを一つ作った方がいい気もするし、なにか処理の仕方を間違えただけな気もする。とにかく急な感じがする。たしか書いている時は字数制限の問題でこのままにしたような気が。

でも全体としては思っていたよりは上手くできていてよかった。漫画原案としての出来、不出来に関してはわからないが、一応読めるものにはなってると思う。読み返していていい刺激になった。


月とスーパーボール。

1

回想。

陸上大会。中学男子走り幅跳び。

レーンに立って手を上げている伊藤ちひろ。

『遠くに行きたい』

走り出す。

『遠く』

走っている。

『なるべく遠く』

踏み込んで、ジャンプする。

『こんな重い体から抜け出して、もっともっと遠くに……』

着地しないまま回想終わり。

部室。痣だらけで倒れているちひろ。

2

中学校。

クラスメイトの噂話。

「ねえ、退院したんだってー」

「え、誰が?」

「陸上部の、ほら」

「ああ、あの人」

「あ、あのパッとしない人ね」

「そうそう、あの人。でも、一応かなり活躍はしてたみたいよ?」

「だから、いじめられちゃったのかな?」

「そうじゃない?」

「陸部、こわー」

その横を歩いていく伊藤ちひろ。松葉杖をついてる。

3

回想。病院。

医者がレントゲン写真を見ながら説明している。

「足の骨が折れてますね」

俯いて座っているちひろ。

「骨がずれてしまっているため、手術が必要です」

反応を示さないちひろ。

「負傷前のような状態に戻るまでには……」

フェードアウト。

4

放課後。

校庭で陸上部が練習している。幅跳びをしている人がいる。

それを眺めているちひろ。

目を離して帰路に着く。

ちひろの部屋。パタンと扉を閉める。

「消えたい」

5

回想。

小学校。屋上への入り口の手前。

小学生のちひろ。体育座りして泣いている。

「消えたいの?」

ちひろが顔を上げる。

白い肌で、幽霊のような美少年、神田よるがいる。

どう反応したらいいか分からないちひろ。

よるは、ちひろの腕にできている痣に気づく。

「あ、痣」

よるはちひろの腕に触れる。

「大丈夫? 痛くない?」

ちひろは体をどける。

「だ、大丈夫だから」

「そっか。君は強いんだね」

「……」

「でも、ちょっと嬉しい」

「え?」

シャツを持ち上げてお腹を晒すよる。

「僕とお揃いだね」

お腹に痣がある。

ちひろは見惚れる。

『それが、僕と神田よるとの出会いだった』

6

『それから僕たちは一緒に遊ぶようになった』

『よるは職員室から鍵を盗んできて、』

「ねえ、ねえ」とよるが言う。

手の中には「理科準備室」と書かれた鍵が握られている。

『僕たちは普段立ち入れない部屋に、こっそりと忍び込んだ』

理科準備室、体育館倉庫、図工室など。ダイジェスト的に。

夜。

プールサイド。

脱ぎ捨てられた服(上だけ)と「プール」と書かれた鍵。

水に飛び込む音。

「一緒に入ろ?」とよるが言う。体には痣。

「……」

怖がっている、ちひろ。

「気持ちいいよ?」

ちひろは意を決して、走り込んでプールに飛び込む。

「どう?」

「冷た〜〜」

「あははは」

よるは笑う。

「僕の方が遠くまで飛べたね」とよるが言う。

「え、競ってたの?」

「どうだろ。でも……」

そう言って、指を差す。そこにはプールに反射した満月がある。

「二人とも、あそこまでは飛べなかったね」

「月?」

「うん」

「あそこは遠いな〜。よるは、あそこまで行きたかったの?」

「うん。触ってみたいなって」

ちひろは空の月を見上げる。

「本物は少し遠すぎるもんね」

「じゃあ、次はもう少し高いところに行こっか」

「え?」

「でも、今日は、泳いで、あそこまで行かない?」

と水面の月を指差す。

「僕、泳げないんだよね」

「じゃあ、僕が教えてあげる」

「え」

よるは笑いながら両手を差し出す。

ちひろも両手を差し出す。

ちひろは顔を赤らめている。

二人は泳ぎ、遊ぶ。笑う。

7

死んだ顔をして、ゴミ袋を見下ろしている中学生のちひろ。

ちひろの部屋。

ゴミ袋には、陸上のスパイクやユニフォームなどが投げ入れてある。

『ねえ、よる?』

『なんで僕が、幅跳びを始めたのか知ってる?』

プールの月がフラッシュバックする。

『あのときの月に触れるようになるためだよ?』

『ねえ、よる?』

『僕はよるさえ居れば、他には何もいらなかったんだよ?』

『ねえ、よる……』

ちひろが窓の外を見ると、満月が浮かんでいる。

「あ、月」

8

回想。

夜。空には月が浮かんでいる。

小学校。

「うわ、高い」

ちひろは、学校の屋上の淵から身を乗り出しながら、地面を眺めている。

「危ないよ」

よるはちひろの襟を掴んで後ろに引っ張る。

「おっと」

「落ちたら大変」

「うん、ごめん」

ちひろは屋上のフェンスにできた大きな穴を見つめる。

(そこからちひろは下を覗いてた)

「どうしてこんなのがあるんだろう?」とちひろが言う。

「知らないの?」

「え? 知ってるの?」

「有名だよ。学校の怪談。ずっと昔に、ある生徒がここから飛び降りたんだって」

「へえー。なんだか、ぜんぜん怪談っぽくないね」

「そうだね。でも、続きはそうじゃないよ。飛び降りた生徒の死体は出てこなかったんだ」

「え? ここから落ちたのに?」

「そう。夜に、ここから飛び降りるとね。たまに、地面じゃなくて、空に落下することがあるんだって。だから、その飛び降りた生徒は、空に落ちて行った。それで、どこを探しても、誰も見つけることができなかった」

「……」

「怖かった?」

「……なんだか素敵な話だね」

「だよね。空に落ちたら、どこに行くと思う」

「……月、かな?」

「ふふっ。それはいいね」

「よるが考える月ってどんなところ?」

「まっさらで誰も住んでいなくて、暴力も、悪口も、無視もないところ」

「すごくいいね!」

「うん」

「ねえ、よる。何か辛いことがあったら、ここから抜け出そうよ。そして一緒に月に行こう?」

よるは笑ってる。

「そうだね。一緒に行こう」

ちひろは満面の笑みを浮かべる。

「でも、一つだけ思ったことがあるんだけど、空に落ちるのが、『たまに』なんだとしたら確実性が薄くない?」

「だから……これ」

よるは、スーパーボールを取り出す。

「スーパーボール?」

「そう。スーパーボール。これを地面に投げたら、空に飛び上がるでしょ。空に落下できる時はね、永遠に落ちてこないんだって。

これで確認して、その生徒はここから飛び降りたんだ。ここまでが怪談の内容」

よるはスーパーボールを地面に投げる。

大きく空に飛び上がって見えなくなる。

でも、落ちてきて、ちひろがキャッチする。

よるは笑う。

「今日はダメみたいだね」

ちひろは手の中のスーパーボールを見つめる。

9

中学のちひろ。

手の中にあるスーパーボールを見つめている。

回想で持っていたものと同じもの。

夜。暗い田んぼ道。地面はコンクリート。

ちひろは地面にスーパーボールを叩きつける。

真っ黒な空の中に吸い込まれていく。

近くの田んぼに「ぽちゃん」と落ちる。

松葉杖を使いながら、そのスーパーボールを取りに行く。

畦から手を伸ばして田んぼに浮かんでいるのを掴む。

「何やってんの?」

と声がかかる。

振り向くと、いじめっこの橘が立っている。

部室で殴られている時の記憶がフラッシュバックする。

ちひろの顔に恐怖が浮かび、呼吸が荒くなる。

橘はちひろの胸ぐらを掴む。

「なあ、お前が怪我なんかするせいで休学処分になっちまったじゃねえか」

「……」

「なあ、何してんの? こんなとこで」

「……」

視線を逸らすちひろ。

「そういう態度がムカつくんだよ。わかる?」

「……」

「ああそう」

拳を振りかざす橘。体を硬くなる、ちひろ。

でも、拳は来ない。

「って、これ怪我させたら休学じゃ済まないか」

ちひろの体は少し弛緩する。ゆっくり目を開けていく。

「……なんて、言うと思った?」

拳が腹に飛んでくる。

「おえっ」と吐きそうになるちひろ。

「そんなわけねえだろっ、ばーか!」

橘は手を離して、ちひろは蹴り飛ばされる。

田んぼに向かって落下していく。

11

回想。

夜。満月。

手を繋ぎ、歩いているちひろとよる。

「これからどうする?」とよる。

「どうしよう」とちひろ。

ちひろは顔を赤くして、よるの横顔を見る。

よるは前を向いている。

ピロン、とちひろのスマホが鳴る。

ちひろは手を離し、スマホを取り出す。

「誰から?」

「母さんからだった」

「……」

「もう遅いって怒られちゃった」

そう言ってちひろは笑う。

悲しそうな表情をするよる。

「じゃあ、早く帰らないとね」

そう言ったとき、よるは道の先にいる人影に気づく。

「隠れて」

とよるは言う。

「え」

「いいから」

ちひろは茂みの中に身を隠す。

人影は、よるの前で立ち止まる。

図体の大きな大人の男(よるの父親)。

「父さん」

「……」

「ごめんなさい」

そんな話は聞かず、よるの父は夜の腹を殴る。

「おえっ」

ちひろは「えっ」と息を呑む。

ドカッ、バコッ、っと音がする。

それを、ちひろは見ている。ちひろの呼吸は荒くなる。

飛び出そうか迷う。

でも、よるがちひろを静止するように、手を向ける。

ちひろは苦い表情を浮かべる。

その後も殴られる音がする。

ちひろは目をつむる。

そして、意を決して目を開き、飛び出す。

「うわああああ!」

よるの父親の足に掴みかかる。

でも、すぐに腹を蹴られる。

「ゴホゴホッ」

と地面に倒れ込む。息苦しい。

薄ぼんやりした視界の中で、よるがちひろを見下ろしてるのがわかる。

同情するような、悲しむような、複雑な表情。

すぐに、よるは視界から消える。

それからよるは父親をかいくぐって、駆け出していく。

「おいっ! 待て!!」と父親は言う。

それを音だけで認識している。

『そのとき、よるはどこ走って行ったのだろう?』

『わからない。でも、それが僕がよるを見た最後だった』

『その日からよるは姿を消した』

12

中学生のちひろ。

田んぼに座り込んでいる。

泥だらけになっている。顔などは腫れている。

道に戻る。

月を見上げる。

『ねえ、よる』

『よるはなんで、僕をこんな地獄に置き去りにしたの?』

『怖くて、冷たくて、泥の味がして、窮屈で。こんな場所、本当はもう出ていきたいのに』

『よるはなんで、僕を連れて行ってくれなかったの?』

『ねえ、』

「うっ、」

涙が出てくる。

「うっ、うっ、」

ちひろは泣く。

少しすると落ち着いてくる。

手に持ったスーパーボールを見る。

「くそっ」と小さく呟く。歯を食いしばる。

「くそっ! 死ね! くそっ! くそっ! くそっ!」

そして怒りに任せて、手に持ったスーパーボールを地面に投げつける。

「くそっ!!」

「はあ、はあ、はあ、はあ、」

田んぼ道は静かなまま。

『スーパーボールは落ちてこなかった』

暗転。

13

小学校。

窓ガラスが一箇所割られている。

「はあ、はあ、はあ、はあ、」

階段を登る。

「よるが、」

松葉杖の音が響く。

「呼んでる」

「屋上」と書かれた鍵を取り出して、鍵を開け、扉を開く。

ちひろが屋上に出ると、風が吹く。

髪が風に靡く。

空には満月。

昔のまま、フェンスには穴が空いている。

『ねえ、よる、』

松葉杖から手を離す。松葉杖が倒れる。

『僕も行くね』

ちひろは駆け出す。

全身に付いた泥が風に散っていく。

足のギブスも解けていく。

『きっと今なら、』

フェンスのところで、踏み込む。

『月にも手が届く気がする』

ジャンプする。

月に手を伸ばす。

月に触れる。

月は握れるサイズで、ちひろそれを掴む。 (漫画的な飛躍として)

『これで!』

重力が反転する。

空の中に吸い込まれていく。

ちひろは満面の笑み。

「危ないよ」

ちひろの襟が掴まれて後ろに引っ張られる。

「えっ?」

小学校の屋上に落下していく、ちひろ。

「君はこっちに来ちゃいけない」

14

屋上に倒れているちひろが目を覚ます。

体は泥に塗れていて、足のギブスも付いている。ボロボロ。

手に何かを握っていることに気づく。

「これ……」

掌をゆっくり開く。

そこにはスーパーボールが握られている。

「うっ、うっ、うっ」

ギュッと全身を丸め胎児のような体勢で泣く。

15

ちひろ。車窓から外を見ている。

『それから何ヶ月かが経過した』

『僕は引っ越して、この街を後にすることになった』

新しい生活のイメージ。ちょっと都会。

『あの田舎町を出れば、もう少しマシな生活になる気がしていたけれど、そんなことはなかった』

『確かにいじめはなくなったけれど、現実はのっぺりと続いており、どこにいても息苦しい』

『辛さはいじめだけではなく、この身体の中にも存在していたのかも知れない』

『遠くに行きたい』

『たまにそう思うことがある』

『そう思ったとき、あの日握っていたスーパーボールを見る』

『跳ね上がり、この現実から飛躍して、空に向かって落ちていく』

『そういった想像をする』

『そうすると、ちょっとだけ生きていけそうな気がしてくる』

スーパーボールを地面に投げるちひろ。

空に飛んでいく。

ちひろは空を見上げる。

「あ、月」